キャッチアップ接種がスタート
2022年4月から3年間、子宮頸がんを予防するHPVワクチンのキャッチアップ接種が始まっています。
平成9年度生まれ~平成18年度生まれ(誕生日が1997年4月2日~2006年4月1日)の女性で、過去にHPVワクチンの接種を合計3回受けていない方が対象となっています。接種の対象になる方は、2022年4月から2025年3月の3年間、HPVワクチンを公費(自己負担は無料)で接種することができるのです。
この世代の方々は、子宮頸がん予防のためのHPVワクチン接種の積極的な呼びかけが中止されていた期間にちょうど接種対象年齢を迎えていた為に、本来受けるべきタイミングでの接種機会を逃してしまっています。
対象者まとめ
- 平成9年度生まれ~平成18年度生まれ(誕生日が1997年4月2日~2006年4月1日)の女性
- 過去にHPVワクチンの接種を合計3回受けていない方
接種が可能な期間と費用
期間:2022年4月から2025年3月の3年間
費用:全額公費(自己負担なし)
接種機会を逃してしまった方が生まれた背景
特定の世代の方々が接種機会を逃してしまった背景には、2013年当時のマスコミの報道による影響があります。
当時、このワクチンを接種した後に重篤な神経症状等が起きる可能性があるという報道がされ、不安が広がる中、ついには厚生労働省によるHPVワクチン接種の積極的な呼びかけが差し控えられることとなりました。
実際には、重篤な神経症状とワクチンとの間に因果関係はなかったことが医学的に証明されたにも関わらず、当時のマスコミがこれについての訂正を行わなかった為に、誤解されたまま10年近くもの間、日本ではHPVワクチン接種への呼びかけがストップしていたのです。
世界中どこの先進国を見ても、国がHPVワクチン接種を積極的に推奨しないと変更した国はこの国だけです。
接種後の副反応は0ではないが安全性は極めて高い
接種後の副反応として、迷走神経反射やめまい、腫れや痛み等は6割~9割の方に起こるとされていますが、これらは時間の経過とともに治ります。1万人あたり5人と非常にまれですが、接種後に気分の悪い状態が続いたり、接種部位の強い痛みやしびれを感じたりする場合がありますが、その約9割は回復する事がわかっています。もし接種後に気になる症状がある場合には接種した医療機関に相談するようにしましょう。
そして、HPVワクチンが他のワクチンと比べて特別に思い副反応を起こしやすいわけではないことがわかっていて、HPVワクチンの安全性は証明されています。WHO(世界保健機関)も「HPVワクチンは極めて安全性が高い」としています。
HPVワクチン接種が子宮頸がんによる死亡率を格段に下げるという事実
実際にワクチンを接種する事で子宮頸がんでの死亡率が大きく減る事は世界的にわかっていますし、2028年には世界に先駆けたオーストラリアは子宮頸がん撲滅とまで言われています。
にもかかわらず、報道のイメージが先行した為に、この日本では「HPVワクチンは危険だから打たない方が良い」という誤解が約10年にもわたり一人歩きし続けてしまいました。その結果、日本ではHPVワクチンの接種率が大幅に遅れており、このままでは今後、子宮頸がんで亡くなる人が世界一多い国になるのではないかとも予測されています。
今回のキャッチアップ接種により、HPVワクチン接種の積極的な呼びかけ再開を国が推進する動きが、ようやく始まったというところです。
実は「腺癌の予防」にも有効なHPVワクチン接種
子宮頸がんは早期発見、早期治療ができ、早期治療ができれば将来、妊娠も出来ます。
「それならば、定期検診だけしっかり受けていればHPVワクチン接種は必須ではないのでは?」
と思われるかもしれません。しかし、子宮頸がんの中には見つけやすい扁平上皮癌ばかりではなく、腺癌という見落としやすい癌もあり、これは必ずしも定期検診で早期発見できるとは限りません。
ですが、HPVワクチンを接種していれば、この腺癌も予防することができますので、やはりワクチンは欠かせません。
また、子宮頸がんの前がん状態や初期病変の場合は、円錐切除術という子宮の出口を切り取る手術をする事がありますが、その手術は流産や早産のリスクを高めます。また、手術をする段階でなくても、前がん状態の場合は数カ月に1回定期的に婦人科を受診する必要もあり、心理的な負担も大きいのです。このような侵襲性を考えると、なるべく前がん状態になることも防ぎたいのです。
それを防いでくれるのがHPVワクチンです。HPVワクチンを接種した上で、定期検診を受けるのが理想です。ぜひ、今回のキャッチアップ接種対象者に該当する方は、積極的に接種をご検討いただけたらと思います。
キャッチアップ接種対象のHPVワクチンの種類
公費で受けられるHPVワクチンは現在3種類あり、2価ワクチン(サーバリックス)、4価ワクチン(ガーダシル)、9価HPVワクチン(シルガード9)があります。
※2023年4月からシルガード9も公費でうけられるようになりました。
9価ワクチンで得られる最大の効果
HPVにはいくつかの型がありますが、この9価HPVワクチンは、このうち9種類のHPVの感染を防ぐワクチンで、接種することで9割以上の子宮頸がんを予防できるとされています。この9価ワクチンの接種を受けることにより、子宮頸がんによる死亡率をほぼ100%に近い確率で低下させることができるのです。
キャッチアップ接種の回数と間隔
今回のキャッチアップ接種の対象者は、決められた間隔をあけて、同じワクチンを合計3回接種しますが、9価ワクチンの場合、15歳になるまでに1回目の接種を終えていれば、2回で接種完了としています。
積極的なHPVワクチン接種が女性の未来を救う!
ちなみに、現在、当院にキャッチアップ接種を受けにいらっしゃる方の約半数が中国・ベトナム等出身の外国籍です。外国籍の方であっても、対象となる年齢の方であればもちろん公費で接種可能ではあるのですが、マスコミ報道により、当時日本で接種のタイミングを逃した方々には、まだまだ情報が行き渡っていない現状がよく分かります。
ワクチン接種により救えたはずの命が、失われていくことを避けるためにも、この国で長年誤解されたイメージに対する正しい理解が早くに進み、HPVワクチンの安全性と必要性が幅広く認知されることを願うばかりです。